羊蹄山もニセコアンヌプリも見渡せる、そんな絶景を望む場所に移住を決めたNさん夫妻。シノザキ建築事務所が設計・施工を手がけたこの家は2020年に完成しました。
愛知県で暮らしていたNさんがニセコに移住したのは60歳のとき。その2年後に奥さまと奥さまのお母さまが引っ越し、今は家族3人で暮らしています。
移住に至る経緯と家づくりのこだわりについて、Nさん夫妻に話をうかがいました。
小さな家でよいと、リビングは造らず
N邸は玄関を入るとすぐにダイニングキッチンとなっていて、リビングルームはありません。小さな家で十分というNさんの考えです。ダイニングテーブルから羊蹄山を眺めることができるよう、窓を大きく配置したので、開放感があります。
台所に立つ奥さまも、仕事をしながらふと羊蹄山に目をやることができて癒されるといいます。
ダイニングからは直接デッキに出られます。夏はこのウッドデッキがリビング代わり。デッキ横にはピザ窯も設置して、アウトドア気分で食事を楽しむこともあります。
ダイニングにどんと構えるのは薪ストーブです。バーモントキャスティング社製で、グリルで料理ができるタイプです。マクロビオティックや薬膳、チーズや味噌、梅干しなどの保存食作りなど、奥さまは料理経験が豊富。薪ストーブでピザを焼いたり豆を煮たりと大活躍の様子です。
暖房はこの薪ストーブのみ。お母さまが1人のときに使えるようエアコンを備え付けてはいますが、ほとんど使うことはありません。
一緒に暮らす高齢のお母さまの部屋はトイレや浴室、ダイニングに近い場所を希望しました。
お母さまの部屋の奥に浴室があります。浴室の窓からはニセコアンヌプリを眺めることができます。
2階は広々フリースペースとご夫婦の寝室で構成
リビングのないN邸ですが、2階には広々としたフリースペースが。ここでは、奥さまがヨガのオンラインレッスンをしたり、Nさんが趣味のテニスの素振りをしているそうです。
冬はこのフリースペースが洗濯物の物干し場に。薪ストーブの暖気のおかげであっという間に乾きます。
2階には夫妻の寝室と、ウォークインクローゼットがあります。
寝室の奥には、Nさんが「隠れ家」と呼ぶ小さな書斎を設けました。こもった雰囲気が落ち着けて、とても気に入っているそうです。
田舎暮らしに憧れ、まず土地を先に購入
自動車会社のエンジニアとして働いてきたNさんは、ベルギーに駐在したことがきっかけで、田舎暮らしに憧れるようになりました。
Nさん
「自然の中で散歩をしたり森に行ったり、おおらかに楽しんでいる現地の人たちの暮らしを見て、とても豊かだと感じました。日本に戻ってからは、なるべく老後は自然の中で生活をしたいと思い始めました」
田舎暮らしをするなら長野か北海道と考えたNさん夫妻。旅行気分で北海道を回っていたとき、ニセコで「土地売ります」の看板が目に入り、連絡をしてみることに。そこでこの土地を紹介されました。
すぐには決断できず、一度愛知に戻りましたが、せっかくだからとまずは土地だけ入手することに。それが2006年のことです。
その後、Nさんは55歳で早期退職し、ニセコに近い京極町で地域おこし協力隊の募集を見つけ、応募します。任期を終え、さあ次は念願の家づくりだと、愛知に帰る間際に住宅雑誌を購入。そこに掲載されていたシノザキ建築事務所の住宅の雰囲気に魅せられ、連絡を取りました。
家づくりで環境に負担をかけたくない
もともとNさんには2つの思いがありました。1つは天然素材を使ってなるべく環境に負荷をかけない家づくりがしたいこと、2つ目は断熱などの性能がしっかりした家づくりがしたいことです。
篠崎社長から断熱材も石油由来のものではなく、土に還るウッドファイバーを使うなど、シノザキ建築事務所の家づくりについて直接聞いていく中で、ぜひお願いしたいと確信に変わったそうです。
豪雪地帯ニセコに住むことから、雪や冬のケアを重視していたNさん。断熱にこだわったのも暖かい家を目指してのことでした。このほかにも風除室をつくったり、カーポートから家までのアプローチには屋根を掛けるなどしています。
Nさん 薪ストーブのある家に暮らしたいというのも私の希望だったので、篠崎社長は薪ストーブ第一で考えてくれました。
打ち合わせのほとんどはZOOMになりましたが、納得のいく家づくりができたと振り返ります。
奥さまの家づくりの希望は、風水や九星気学を学んでいたので水回りを鬼門に持ってこないこと、台所仕事をしながら羊蹄山を眺めたいこと、キッチンはラジエーターグリルを使用したいことなどがありました。
奥さま 九星気学から引っ越す時期を鑑定し、私と母は主人が移り住んでから2年後に引っ越しました。友人たちと離れ、遠い雪国に暮らす決断にも、時間が必要でしたね。
引っ越してみると、雪の多さに驚いた奥さまでしたが、その豪雪すら美しく、毎日写真を撮りに外に出かけるほど。家の中の室温は冬もほぼ20℃前後と一定していて、奥さま、お母さまともどもとても暖かく過ごしやすいと満足しています。
今はNさんが庭に作った畑で、無農薬での野菜づくりに精を出し、収穫した野菜を使って奥さまが料理や加工品作りを楽しむ毎日です。
畑仕事のない冬は、Nさんは長年趣味で続けているレザークラフトづくりを楽しんでいます。手帳カバーやティッシュケースなどを主に作っているそうです。
長年思い描いていた暮らしをようやく実現したNさん夫妻。まったく知り合いのいない地域への移住は大きな決断だったと思います。地域の人との交流も徐々に増え、その暮らしぶりは年を追うごとに彩り豊かなものになっています。
写真/スタジオスーパーフライ 大道貴司
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